文字っぽいの。

文字を書いています。写真も混ざります。

僕と立ち食いそば

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 僕は駅の立ち食いそばが大好きだ。

 長野から京都に移り住んで、もうすぐ2年になる。ここで食べられる立ち食いそばは関西の味付けになるけど、僕が好きなのは関東の立ち食いそばだ。もちろん関西の昆布だしと薄口醤油で仕上げた、上品な「そば」も美味しい。だけど、僕の身体に染み付いた味は、鰹だしと濃口しょうゆで仕上げた「そば」だ。あの黒くてジャンキーな見た目が大好きだ。駅の立ち食いそばが、しっかりと鰹からだしをとって、本当に醤油を使っているかなんて、この際どうでもいい。謎の合成調味料によって生成されている、あの駅の立ち食いそばが大好きなんだ。

 そんな立ち食いそばの中でも、「月見そば」が大好きだ。320円で幸せになれるなんて、恐ろしく貧相な舌だなと笑ってくれてもいい。でも好きなんだ。僕が駅の立ち食いそばが好きになって、その中でも月見そばが好きになった理由は、小学校低学年まで遡る。

 そのころ僕は、ばあちゃんと一緒に隣の隣の隣町まで、電車に乗って整体を受けに行っていた。理由は、おねしょがなかなか治らなかったから。意味がわからない。たしか、おねしょが治っても行っていた気がする。そんな訳で、僕とばあちゃんは月に1,2回電車に揺られながら遠出をしていた。整体院は、到着した駅からバスに乗って20分ぐらいの所にあって、今から思うと良くもまあそんな遠くまで行っていたものである。そこで身体をバキボキされて、電気をビリビリされた後で、駅に戻った僕とばあちゃんがすることは、駅の立ち食いそば屋でそばを食べることだった。電車が1時間40分ぐらいの間隔でしか来ない上に、バスの時間が乗り継ぎに嬉しい時間に到着しない様な田舎だったから、電車が来るまですこぶる暇だった。その間、蕎麦をすすって待っていた。僕はいつも、月見そばを食べていた。最初の頃は、全部食べきれなくて、半分ぐらいをばあちゃんに食べてもらっていたけど、そのうち1人で全部食べきれるようになった。

 僕は、月見そばの白身が固まって黒い汁にふわふわ浮かんでいるのが好きだった。固まってない透明な白身が、レンズみたいになって、汁の中を覗けるのも好きだった。黄身を割って食べると、味がまろやかに変わるのも好きだった。ネギがどっかりのっていると、それだけで嬉しかった。

月見そば美味しい。月見そば食べたい。